街にあふれる”毛孩子(マオハイズ)”(毛の生えた子供)
いま中国の街を歩くと、ペットと過ごす人々の姿が至るところで見られます。おしゃれな服をまとった小型犬、キャリーバッグから顔をのぞかせる猫、ショッピングモールのカートにちょこんと乗ったウサギ──こうした光景はもはや特別なものではなく、日常の一部となっています。2025年2月、北京市内で開催された「北京国際ペットフェア」には、世界各国から1,500以上の企業が出展。ペットフードやおもちゃ、スマート給餌機、ペット用サプリメントなど、多彩な製品が所狭しと並び、若者たちが熱心に見入っていました。展示面積は実に12万平方メートルに及び、中国におけるペット熱の高まりを象徴しています。
都市部だけでもペット飼育世帯は7,689万世帯、犬や猫の飼育数は合計で1億2,000万匹を超えます。関連市場はすでに6兆円規模に達し、2027年には8兆円を超えると見込まれています。これはもはや一時的なブームではなく、確固たる社会的トレンドと言えるでしょう。
では、なぜいま中国でこれほどまでにペットが注目されているのでしょうか。
急成長の背景にある社会の変化
中国におけるペットブームの背景には、いくつかの社会的要因が存在します。
最も大きな要因の一つは「少子化」と「単身世帯の増加」です。近年、中国では出生率の低下が深刻な社会問題となっており、ゴールドマン・サックスの試算によれば、2030年には都市部におけるペット数が4歳未満の子どもの2倍に達するといいます。
一方、都市部では一人暮らしの若者も急増しています。2021年には単身世帯が9,200万を超え、独身率も1999年の6.3%から2020年には25.3%へと大きく上昇しました。こうした「ひとり時間」が長いライフスタイルの中で、ペットは癒やしやつながりを与えてくれる存在として重宝されています。
また、ペットの主要な飼育層は1980~90年代生まれのミレニアル世代やZ世代です。彼らは経済的にも一定の余裕があり、「かわいさ」や「癒やし」だけでなく、健康志向や品質、安全性にもこだわる傾向があります。
市場はすでに“第二の子育て産業”
ペット関連市場の規模は2023年時点で2,500億元(約5.2兆円)に達し、年平均成長率は13.1%と高い水準を維持しています。構成比では、ペットフードや用品が全体の半分以上を占め、次いで医療(約30%)、サービス(約16%)が続きます。
中でもペットフード分野の成長は著しく、「シニア犬用フード」「胃腸にやさしいタイプ」「免疫力向上型」など、細分化が進んでいます。飼い主の約90%が栄養素や効能を重視し、70%がペットの体質や性格に応じてフードを選んでいるという調査結果もあります。
加えて、ペット用スマート家電の普及も目覚ましく、自動給水器の家庭普及率は63%、ペットカメラも60%に達しています。都市部では、まるで“スマート育児”ならぬ“スマート飼育”が当たり前となりつつあります。
若者にとって、ペットは恋人であり、家族である
Z世代の多くは、ペットを単なる動物ではなく、“毛の生えた子ども”=「毛孩子(マオハイズ)」として大切に扱います。SNSではペットの成長記録や「飼い主との1日」を紹介する投稿が日々投稿され、中には“猫インフルエンサー”として月収数十万円を稼ぐアカウントも登場しています。
特に都市部では、「人間関係よりもペットとの関係のほうが気楽」「子どもよりもペットのほうが愛せる」と感じる若者が増えつつあります。背景には、競争社会に疲れた心や将来への不安を和らげてくれる存在として、ペットを選ぶ心理もあるのかもしれません。
成長の裏にある課題も
しかし、急成長の裏では、飼育放棄や法整備の遅れといった課題も顕在化しています。
多くの保護施設は飽和状態にあり、ある施設では1,000匹以上の犬を保護しているにもかかわらず、過去4年間で新たな飼い主が見つかったのはわずか43匹という実態も報告されています。
また、ペットの虐待や不適切な飼育に対する法的規制も未整備で、宅配便による生体輸送など、“命の軽視”ともいえる取引が問題視されています。
「癒やしの存在」であるはずのペットが、過度なビジネス化によって、本来優先されるべき“命への配慮”が置き去りにされてはいないか。この点については、社会全体での議論と対応が求められます。
「ペットのいる生活」が映すもの
中国におけるペットブームは、単なる消費トレンドではなく、急速に変化する社会と価値観を映し出す“鏡”といえるでしょう。
都市化の進展や個人主義の浸透、そして家族のあり方の変化のなかで、人々はペットに「癒やし」や「愛される実感」を求めています。だからこそ、経済不安の中でもペット関連支出は衰えを見せていないのです。
この流れは、いずれ中国国内にとどまらず、日本を含む他国にも波及していくかもしれません。ペットとの新しい共生のかたち──その先にある「心豊かな社会」について、いま一度、考えてみる価値がありそうです。
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